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「する」も「しない」も、女性が自由に選べる世界へ。私たちがirohaをつくる理由(開発チーム編)

 

iroha」(イロハ)が生まれた理由を知っていますか?

 

私たちは、ただ「気持ちよくなれるもの」をつくろうとしたわけではありません。
「iroha」の目指す先は、女性が自分の身体から発せられる声に耳を傾け、パートナーがいてもいなくても、セックスをしてもしなくても、心地よく生きられる世界にすること。

 

自分を慰めるマスターベーションではなく、「自分を喜ばせる」セルフプレジャーを楽しんでほしい。そんな想いから、2013年に「iroha」は生まれました。今回は「iroha」にこめた想いを多くの女性に知っていただくために、商品づくりに携わる開発者のインタビューをお届けします。

 

渡辺
2010年入社のアートディレクターにして、「iroha」のブランドマネージャー。初代「iroha」の開発に関わったメンバーのひとり。

 

中川
2016年入社のグラフィックデザイナー。ブランドサイトリニューアルなどを経て、「iroha」シリーズではパッケージデザインなどを担当。

 

武内
2016年入社のプロダクトデザイナー。2019年5月には、「iroha temari」で初めてプロジェクトマネージャーを務めた。

 

 

※2023年3月3日に「iroha」はリニューアルしました。本記事は2013年発売当初の「iroha」製品に関する内容です。あらかじめご了承くださいませ。

 

 

性を、誰もが楽しめるものに。2年を費やして完成した「iroha」

――「iroha」はどのようなきっかけで生まれたのですか?

渡辺:弊社は創業当初から、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というメッセージを発信しています。だからこそ、「性別を問わず、どんな人でも楽しめるアイテムをつくりたい」という想いがありました。弊社の人気商品「TENGA」はすでに男性のあいだで知られていたので、つぎは女性向け商品をつくろうという構想があり、2011年に開発プロジェクトが始動したんです。

 

欧米のアダルトグッズ市場を見ると、じつは女性向け商品の割合が大きいんですよ。欧米でアダルトグッズといえば、自立した女性が自分のために使うものとされています。そんな状況もあって、海外でも認められるブランドへ成長するために、女性向け商品の開発は必要でした。

 

 

――とはいえ、男性用のTENGAとはコンセプトもつくり方も違いますよね。開発はどのように進めていったのですか?

武内:最初は、「TENGA」ブランド内に女性向けのラインナップをつくるのか、それとも別ブランドを立ち上げるのか、というブランドコンセプトづくりから始まったと聞いています。

 

渡辺:最初は男女問わず、社内のデザイナー全員がブランドコンセプトを考え、コンペ形式で提案しました。それぞれの良いところを組み合わせながら、半年以上かけて骨組みを作成。案のなかには「TENGA」の名前がついているのもありましたが、すでに男性向けの商品として知られていたこともあって、独立した新ブランドとして「iroha」を立ち上げることになりました。

 

——日本女性のニーズを調べたりしましたか?

渡辺:「iroha」のメイン購入層と考えられる、20〜39歳の女性を対象に市場調査をしました。その結果、セルフプレジャーの経験がある人は全体の約7割。さらに、セックスやセルフプレジャーでアイテムを使ったことがある人は約4割で、ローターや電動マッサージ器など、あてがうアイテムの使用経験が多いことがわかりました。

 

その結果をもとに開発チームで話し合い、「iroha」はまず、「初心者向けに提案し、徐々にラインナップを増やしながら、同時にセルフプレジャー市場をつくっていく」という目標を掲げました。そのため、初めから挿入アイテムにするのではなく、初めての方でもチャレンジしやすい「あてがうタイプ」のアイテムを提案することになったんです。

 

――実際の開発では、どんな苦労がありましたか。

渡辺:当時は女性向けアイテムが一般的ではなかったので、私たちも手探りでしたね。研究のために海外向けの商品を買い集めてテストを繰り返しましたし、「iroha」らしさを特徴づける、ふわふわしたシリコン素材を見つけるのも大変で。

 

初代は、1種につき30サンプルをつくったんですよ。シリコンをひっくり返してパーティングライン(※)をなくし、美しさと使い心地のよさを目指したのですが、その金型を完成させるのは大変でしたね……。金型を10回以上修正しましたし、多いときには1日9個の試作品を試していました(苦笑)。
(※)金型を用いる製品に現れる出っ張りのこと。鋳造や射出成型で成型する際に、金型の合わせ目に発生する。

 

 

——「iroha」というネーミングも印象的ですよね。

渡辺:ネーミングは、仮名を習うための「いろは歌」から取っています。誰にでも身近でありながら、知性を感じられる名前ですよね。女性が自分の性と向き合い、性を育むきっかけを与える存在になりたいという思いを込めました。

 

そういえば、「めくるめく」とかけた「くるめっく」なんて案もありました。「iroha」とはだいぶイメージが違いますね。

 

 

マスターベーションとセルフプレジャーの違いって?

——ところで、「iroha」の商品を「セルフプレジャーアイテム」と称していますよね。呼び方にもこだわりが?

渡辺:ブランドの立ち上げ段階から、「『女性向けマスターベーショングッズ』って、ダイレクトで恥ずかしいよね」という意見が出ていました。「恥ずかしい」というイメージを払拭するためにも、口に出して恥ずかしくない言葉を使いたい。そこで、欧米では一般的だった「セルフプレジャー」という言葉を使うことにしたんです。

 

「マスターベーション」には「オーガズムを得て性欲を解消する」というある種固定されたイメージがある一方、「セルフプレジャー」には目的がなく、悦びの種類も限定されていません。なので、オーガズムに限らず、「自分なりの悦びを自分で見つける」という柔軟な意味合いがあるんです。

 

 

——「性を表通りに」というコンセプトと、「セルフプレジャー」という言葉でワンクッション置くことは、一見矛盾しているようにも思えます。

中川:男性には、すでにある程度、自分の性欲をポジティブに語れる土台がありますよね。でも日本の場合、女性の性欲はそもそもないものとされがちで、気軽に話す土台すらない。実際、「積極的に話したくない」という女性も多いです。だから、「性を表通りに」の意味も男性とは少し違います。

 

「マスターベーション」を日本語で「自慰」とも言いますが、これは「自分を慰める」と書きますよね。「慰めが必要なネガティブな状態にあるからする行為」ではなく、「悦びを見つけるための行為」である。その認識を持って欲しくて「セルフプレジャー」という言葉を選びました。よく眠るためにする人もいますし、決して性欲を満たすだけの行為ではありません。

 

女性にとっての「表通り」とは、性的な話題をおおっぴらに話せるようにすることではなく、性欲を「自然な欲求」というポジティブな認識に変えていくことだと思っています。

 

——「自慰」ではなく「自愛」や「自悦」というニュアンスですね。確かに、印象も目的も違います。

中川:よくよく考えてみると、「女性の性欲は男性がいないと満たされない」という前提があるのも変ですよね。人と食べる食事も確かにおいしいけど、1人で食べたいときもあるじゃないですか(笑)。

 

日本の場合、なぜか「女性にパートナーがいない=悦びがない」とされてしまう。たとえば、女性にとってのネイルは、男性のためというより、自分の気分を上げるためにやるものではないでしょうか。セルフプレジャーも同じです。その意識を日本でもつくっていきたいんです。

 

 

——ちなみに、欧米ではセルフプレジャーアイテムに対してどのような意識があるんですか?

渡辺:過去に欧米へ市場調査に行き、現地のバイヤーや他社ブランドのデザイナーから話を聞いて知ったのですが、現地では自立している女性のほうが魅力的だという価値観があり、セルフプレジャーアイテムを使ったり、こだわって選んだりすることが当たり前だそうなんです。

 

中川:高額商品も女性向けのほうが売れているし、パートナーや友達にプレゼントとして買う人も多いそうですよ。女性のパートナーにプレゼントするために男性が開発したアイテムもあるくらいです。「女性の性欲はある」のが前提なんですね。

 

 

「iroha」は恥ずかしいものじゃない。パッケージやデザインの細やかなこだわり

——「iroha」は一見アダルトグッズには見えないデザインやパッケージも特徴的です。

渡辺:ほかのブランドの商品にはなかった「和モダン」のテイストを取り入れています。流行の変化に影響されにくく、長く使いたくなるミニマルさと、和菓子のようなかわいらしさを表現しました。私たちが目指したのは、一見何に使うのかわからないような、日常生活に溶け込むデザイン。使用後の罪悪感を感じないような愛らしさ。初代は3種を発売したのですが、ダントツの人気は「YUKIDARUMA」ですね。

 

中川:真っ白なアダルトグッズって、珍しいんですよ。

 

渡辺:男性社員からは「白いと汚れが目立って売れないのでは?」という声もありましたが、「そんなわけない、汚れたら洗うから!」って(笑)。

 

 

渡辺:販売する方法も社内で議論になりましたが、「TENGA」は18歳以上限定の商品として勝負しているのに、「iroha」だけ「マッサージャー」と呼んで一般向けの商品を装うのは変な話。「性を表通りに」という理念を貫くために、あえて18歳以上に限定するいばらの道を選びました。

 

中川:パッケージは、重箱の高級感や一般家電のような品格を出しつつ、捨てるときにもバレないように、手でちぎって捨てられる紙でつくっています。これは意外と知られていないこだわりですね(笑)。お問い合わせを受けるカスタマーサービスも、気軽に話していただけるように、絶対に女性が出るようにしているんですよ。

 

渡辺:通販で注文して、家族から「何の荷物?」と詮索されるのも嫌ですよね。なので、オフィシャルの通販サイトでは、発送人を社名の「株式会社典雅」から変えています。正直、いろいろとコストはかかりますが、誠実に女性のセルフプレジャーと向き合っていきたいんです。

 

 

ラインナップは10種以上。服を選ぶように、楽しく選んでほしい

——いちばん社歴が短い武内さんは、「iroha」を開発するうえで驚いたことはありますか?

武内:想像以上にきちんとつくっていることに驚きました。デリケートな部分に直接触れるものなので、普通のプロダクト以上に気を使わなければいけません。安全に使えるか、使用感はいいかなど、試作品のテストを何度も行い、比較検証して、フィードバックを次の試作品に反映させている。ブランドの真摯な姿勢に好感を持っています。

 

——初代の発売から6年が経ち、シリーズのラインナップもどんどん広がっていますね。

武内:新商品は1年に2回のペースで出しているので、今後もどんどん増えていく予定です。価格帯もさまざまで、「iroha stick」は1,346円(税別)。お試し感覚で使ってみてください。5,000円以上の商品は充電式でしっかり楽しめます。

 

それぞれ刺激も違うので、服を選ぶ感覚で楽しく選んでいただきたいですね。個人的には、生活の延長にあっても違和感がないような、それでいて新しい素材や技術を取り入れたアイテムもつくってみたいです。

 

中川:安全面からすぐに実現するのは難しいのですが、私はお試し感覚で手軽に使える、使い捨てのアイテムにトライしてみたいですね。「今度はどんなアイテムをつくってくれるんだろう?」と楽しみにしていただけるような、まだ見ぬ商品を開発していきたいと思っています。

 

こちらは「iroha temari」の開発資料。柄のデザインが違うだけで、印象はガラッと変わります。

 

 

してもいいし、しなくてもいい。「iroha」が女性の選択肢を広げます

——「iroha」といえば、2018年に百貨店に業界初のポップアップを出店し、話題になりました。女性を取り巻く環境は、初代「iroha」の発売当時から変わったと思いますか?

中川:「性を表通りに」を実現するのは思った以上に大変ですが、ここ2、3年で変わってきていると思います。2019年は、東大の卒業式の祝辞に上野千鶴子さんが登壇したことも話題になりましたよね。さまざまな世代の女性が社会的な実績を積み上げてきたことで、女性の声を無視できない社会になってきているのではないでしょうか。

 

渡辺:じつは、発売して3年くらいはそもそも売る場所がなく、苦戦する状況が続きました。アダルトコーナーに置いても女性は立ち寄らないし、雑貨店からも取り扱いを断られることがほとんど。従来のアダルトグッズとはコンセプトが違うからこそ、ときにはアートやファッションを切り口にしながら、時間をかけてブランドを浸透させていくことが必要なのだと思います。

 

2014年には、ニューヨークマンハッタン発のセレクトショップ「OPENNIG CEREMONY」と「iroma mini」のコラボアイテムも発売。「iroha」のメッセージに共感していただき、実現したコラボです!

 

 

——みなさんは、「iroha」を通じてどんな世界を実現したいですか?

武内:「選択肢はたくさんある」ということを伝えていきたいですね。いままでは「女性なら、こうするべき / しないべき」という不自由さがあったように思います。でも、セックスやセルフプレジャーを、してもいいし、しなくてもいい。女性がみずから選べるように、選択肢を増やしていきたいです。

 

中川:セルフプレジャーについて話すことって、排泄について話すことと似た立ち位置だと思うんです。健康のために話すのも、プライベートなことだからわざわざ話さないのも個人の自由。先の長い話ですが、どちらも自由に選べる世の中にしていきたいです。

 

渡辺:私は、いまよりもっとセルフプレジャーをすることが当たり前の世界になってほしいと思います。たとえば、親から子への性教育アイテムとして「iroha」が選ばれるような。私は婦人科系器官の不調を経験したのですが、それに気づいたのはセルフプレジャー中の感じ方や、潤滑量の変化がきっかけでした。セルフプレジャーは自分の身体と向き合う行為で、セルフケアと地続きのもの。女性が自分自身を知るためのアイテムとして、これからも普及させていきたいですね。

 

 

「iroha」開発チームの熱い想いはいかがでしたか? このインタビューが、もっと「iroha」を愛していただけるきっかけに、そして「iroha」を使っていただけるきっかけになれたら、こんなに嬉しいことはありません。

 

そして次回は、広報チームのインタビューもお届けします! ユーザーのみなさまに寄り添いながら、どのように「iroha」の想いを伝えているのでしょうか? こちらの記事もぜひご覧ください!

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