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いろはにほへと「愛欲」
小浪 次郎×窪 美澄

からだが求める「気持ちよさ」を大切に、そして美しくあるために。女性の視点でつくられたセルフプレジャー・アイテム『iroha(イロハ)』をモチーフに写真家と文筆家がそれぞれの感性で描写します。

「愛欲」

体と心の不一致。二律背反。ジレンマ。

 

体と心は必ずしもいっしょではない、体と心のアウトラインが、きれいに重ならない、と感じるようになったのはいつの頃からだろうか。大嫌いで顔も見たくないような人とセックスをして激しく気持ちいいと感じてしまったときだろうか。

 

その人のことが大好きで大事にしたい、という気持ちと、その人とセックスをして気持ちよくなりたいのだ、という気持ちもイコールではなく、いつもどこかはみ出してしまうような気がする。

 

クッキーの生地をのばして、はしっこから型で抜いていく。なるべく無駄のないようにと。けれど、どうしても微妙に余ってしまうあの感じ。

 

愛欲とは、オーブンに入れる前の余ったクッキー生地なのではないかと思う。焼いたほうがいいのか、捨てたほうがいいのか、迷いながら、手のなかで次第にあたたまっていく、それ。

 

けれど、一個のクッキーも焼けないほどの、余った生地のなかにこそ、滋味があるのではないかと、それを持てあまして頭を悩ませることに、人生のおもしろみがあるのではないかと、長く生きれば生きるほど、そう思うようになった。

 

恋をして、愛して、相手を何より大事にしたい気持ちよりも、自分勝手な妄想のなかで、めちゃくちゃに快感を得たいのだ、という気持ち、それもまた、生きていくうえで抱えなくちゃならない人間のどうしようもなさであり、愛おしさだ。

 

恋人に会えない週末に。雨粒が激しく窓を叩く真夜中に。何もかもうまくいかないときに。いや、だめなときでなくてもいいのだ。気持ちのいい五月の風がカーテンを揺らしたときに。ネイルが綺麗に塗れたときに。オムレツを失敗しないで焼けたときに。

 

irohaはあなたの愛欲を許し、甘やかし、肯定するだろう。

どうかお嬢さん方。

ゆめゆめ罪悪感など持たれませぬよう。

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