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江戸時代のセルフプレジャー事情とは? 春画から紐解く、女性たちの変わらぬ想い

 

※本記事では、春画や江戸時代の性具などを、画像を交えてご紹介しています。

 

はじめまして、春画ールと申します。

 

わたしは普段、SNSで日本の性文化や江戸期から明治期頃の春画の情報を発信しています。いま、わたしたちが当たり前のように受け入れている性の考えや文化は、決してある日突然現れたものではありません。長い年月の積み重ねと打破の繰り返しによりでき、進歩を続けています。

 

今回は女性の「セルフプレジャー」に焦点を当て、使われていた道具や女性の性器の呼称「玉門(ぎょくもん)」の由来などについてご紹介していきます。

 

鳥居清長《好色末摘花(こうしょくすえつむはな)》(1785年)国際日本文化研究センター所蔵

 

江戸時代の女性がセルフプレジャーを行う理由って?

わたしの家には現代のセルフプレジャーアイテムと、およそ200年前につくられたセルフプレジャーアイテムがあります。

 

現代のセルフプレジャーアイテム「iroha FIT」は寝室に置いてあり、江戸時代の張形(はりがた)は宝物入れに保管してあります。2つのアイテムには時代の隔たりがありますが、どちらも所有者が自分のために使用し、有意義な時間を過ごすために使われてきました。

 

200年ほど前に使われていた張形の現物(春画ール私物)

 

張形はもともと中国から伝来し、平安時代の末期には日本に存在していた性具。高級なものだと、べっ甲や水牛の角を素材にしてつくられます。上方(京都や大阪辺り)から江戸へと伝わり、大奥や大名の奥向きで需要が高まっていきました。

 

わたしが所有する張形は、素材の厚さが1mm程度の極薄。厚みが薄い張形ほど、上等な品とされています。職人の手作業によるムダのないフォルムは感動ものですよね。

 

 

あまりにも張形が薄くて軽いので重さを測ってみたところ、なんと15.91グラム。プチトマト1個分くらいの驚きの軽さです。使用時には湯で温めた綿などを詰め込むので、もう少し重くなるかもしれませんが、それにしても軽い。軽すぎる。

 

張形の先端は丸く、凹凸が彫りこまれています。この凹凸が使用時の要なのでしょう。「iroha FIT」シリーズ「MINAMOZUKI(みなもづき)」の表面にもなめらかなウェーブがありますね。女性が求める気持ちよさや心地よさの核は、不変なのかもしれません。

 

この張形を、女性たちが購入しようとしている絵があります。

 

菱川師宣《床の置物(とこのおきもの)》(1681-1684年)国際日本文化研究センター所蔵

 

《床の置物》は、奥女中(大奥や大名の奥向きに仕える女中)たちの営みを、ユーモアたっぷりに描いた作品。日用品や化粧品を売る小間物屋の御錠口(おじょうぐち。表から奥へ続く出入り口のこと)で、女中たちがさまざまな大きさや形の張形を広げ、熱心に品定めをしています。この張形を使用し、奥女中たちは自分でデリケートゾーンの按摩(あんま)、つまりマッサージを行いました。

 

歌川豊国《逢夜雁之声(おうよがりのこえ)》(1822年)国際日本文化研究センター所蔵

 

渡辺信一郎氏のご本『秘薬秘具辞典』によると、秀麗尼(しゅうれいに)という女性が書いた《秘事作法》という書(江戸初期頃)には、奥御殿に勤めた自分の経験とともに、女中たちに向けた「自分で精を漏らす方法」……つまり、セルフプレジャーの方法が書かれています。秀麗尼によると「女性の健康の秘訣は、性器の深奥から精水を漏らすこと」だそうです。

 

健康とセルフプレジャーを関連づけ、セルフプレジャーをオススメする指南書は珍しくありません。月岡雪鼎の《艶道日夜女宝記(びどうにちやにょほうき)》(1769年頃)には「自分で按摩を行うことで血流が良くなる」と書かれており、渓斎英泉《閨中紀聞 / 枕文庫(けいちゅうきぶん まくらぶんこ)》(1822-1832年)でも、お年頃になったら健康のために自分で按摩を行うことが勧められています。

 

かつてセルフプレジャーは「はしたないこと」ではなく、健康のために行う按摩と考えられていたようです。意外だと驚いた方もいるのではないでしょうか。

 

現代を生きるわたし自身が「iroha」を使ってセルフプレジャーをする理由を考えてみると、「リラックスしたい」とか「ストレス発散」といった理由もありますが、感覚としてはストレートに「したいから」です。

 

セルフプレジャーをすることを恥ずかしく思う方はまだまだいるかもしれませんが、わたしは「他人がどう思うか」を考えず、自分のための日常の一コマとして、その時間があるべきだと思っています。

 

春画に描かれている張形を選ぶ女性たちは、なんだかウキウキしているように見えませんか? 彼女たちも、わたしと同じような気持ちだったと思います。

 

手に持って挿入するだけじゃない! 張形の使い方は千差万別

江戸時代の張形は、手で持って挿入するだけではないのです。

 

湯に浸した綿や手ぬぐいをなかに詰め込んで、内側から人肌くらいに温めます。温めることで、素材であるべっ甲や水牛の角が柔らかくなり、人の肌のような弾力になるそうです。実際、わたしが所有している張形の空洞を覗いたら、奥に綿が付着していました。

 

月岡雪鼎の《艶道日夜女宝記(びどうにちやにょほうき)》では、張形の詳しい使用方法が掲載されています。

 

月岡雪鼎《艶道日夜女宝記(びどうにちやにょほうき)》(1769年頃)国際日本文化研究センター所蔵

 

これによると、最初は枕絵などを見て心を潤しながら気分を高め、次は足首に張形を結びつけて好きな姿勢で按摩を楽しみ、膣に当たる位置を微妙に変化させて自分の好きな部分に当てるようです。

 

張形はもちろん手で持って使用してもOKだし、布団に結びつけて、布団を抱きしめながら使用してもいい。張形を持つ女性の数だけ使用方法が存在したのでしょう。

 

張形は小間物屋や香具屋のほかに、性具を扱う四ツ目屋(よつめや)という店でも購入することができました。しかし、庶民の女性が気軽に購入できる価格ではありません。きっと張形は女性の憧れの道具だったのだと思います。

 

浪速男一物《婀娜枕仮寝夢後編(あだまくらかりねのゆめ こうへん)》年代不詳 国際日本文化研究センター所蔵

 

渓斎英泉の《閨中紀聞 / 枕文庫》には、張形を買えない女性に向けて、野菜を適当な細さに削り、温めた灰で柔らかく蒸して使用する方法が紹介されています。

 

余談ですが、この《枕文庫》には、セルフプレジャーだけでなく、女性の体質や身体の冷えについて言及している部分があります。冷えの対策として、湯に浸かって入浴することも勧められていました。「女性は腰が冷えやすい。こたつでは身体は温まらない。湯に浸からないときのおしりは、まるで『猫のお鼻』のような冷たさだ」と書かれています。現代のように、江戸時代にも腰やおしりの冷えに悩む女性がたくさんいたのかもしれませんね。みなさん、おしりがにゃんこのお鼻みたいに冷たくならないように、お風呂に入りましょう(笑)。

 

「玉門」という呼称の由来を、文献から発見しました!

女性のデリケートゾーンの呼び方についてもご紹介しておきます。

 

歌川豊国《逢夜雁之声(おうよがりのこえ)》(1822年)国際日本文化研究センター所蔵

 

女性の性器の呼び方はさまざまなものがあり、「蕃登(ほと)」や尊称の「みほと」という呼び方は古くから存在したとされています。

 

わたしが好きな女性器の呼び方は「玉門(ぎょくもん)」です。「玉のような美しい子」という表現があるように、「玉」には「張りがあって美しい」などの意味があり、日本語の美しさを感じますね。

 

この「玉門」の由来を、春画ールはとうとう文献から見つけました(拍手)。

 

歌川国麿《宝文庫(たからぶんこ)》序文 国際日本文化研究センター所蔵

 

歌川国麿《宝文庫》によると、女性の性器には3種類の玉があり、それぞれ正面にある「天玉(てんぎょく)」、左側にある「陽玉(ようぎょく)」、右側にある「陰玉(いんぎょく)」とされ、天玉は「心臓に通じる玉」と書かれていました。性器のなかに玉が存在するとは、面白い考えですね。

 

また蘇雲斎千酔(そうんさいせんすい)の《男女懐宝 / 礼開節図集》にも、「位置は人により異なるが、女性の陰門には必ず3つの玉が存在するため『玉門』と呼ぶ」という記載がありました。わたしはほかの資料で「玉門」の由来を確認したことがなく、大発見だと思っているので、「この書籍に書かれてたよ」というご意見があれば、春画ールのSNSへコメントをください(笑)。

 

当時は人間の身体の仕組みや命を宿す仕組みがまだまだハッキリと解明されていない時代だったので、想像や伝説から書かれた文献が多いです。けれどこのような探究心があったからこそ、医学や科学が発展し、現在のわたしたちにつながっているのではないでしょうか。

 

人々の求めるものは、江戸時代から現在につながっているのです

セルフプレジャーに使用したかどうかは不明ですが、江戸時代にも潤滑剤は存在しました。フノリなどの海藻や、卵の白身や葛粉といった食材からつくられ、天然のヌメリを使用したようです。

 

 

この写真はフノリと葛粉で江戸時代の潤滑剤を再現したものなのですが、そのテクスチャーは海藻特有のヌメリですし、独特の匂いがあって気分は上がらないです(笑)。ちなみに海藻由来の潤滑剤は現代でも販売されています。こんなところからも時代のつながりを感じますよね。

 

戀川笑山《實娯教絵抄(じつごきょうえしょう)》江戸末期 春画ール所蔵

 

張形や潤滑剤に限らず、現代でも使用されているさまざまな製品の原型は、江戸時代にはすでに誕生していることもあります。そこへ科学の進歩や文明の発展も加わり、長い年月をかけて質の高い製品へと進化していきました。

 

現代のわたしたちが必要としているものの核をさかのぼってみると、わたしたちが時代を問わず、本能的に求めているものが見えてくるのではないでしょうか。

 

絵師不詳《新色閨の鳥貝(しんしょくねやのとりかい)》国際日本文化研究センター所蔵

 

時代を超えて人々が求めるものの例として、今回はセルフプレジャーや女性の身体にまつわるモノコトに着目しました。自分のためのセルフプレジャーをオススメしてくれる「iroha」のように、これからも多くの人を幸せにするための選択肢が増えたらいいなと思っています。

 

ではまた、どこかでお会いできますように♪

 

(箱が並ぶと可愛さ倍増!)

 

Text / 春画ール
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