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いろはにほへと「秘すれば花」
在本彌生×タナダユキ

 

からだが求める「気持ちよさ」を大切に、そして美しくあるために。女性の視点でつくられたセルフプレジャー・アイテム『iroha(イロハ)』をモチーフに写真家と文筆家がそれぞれの感性で描写します。

「秘すれば花」

秘すれば花。秘せずは花なるべからず。
『風姿花伝』のよく知られたこの言葉。世阿弥もガッカリするような現代風に訳すと「チラリズム最高!」というところだろうか。

 

「全てを見せるな。秘するものがなければ、花を見せたところでその花の価値はない」能にとどまらず、これはもはや日本の数百年の伝統と言っても過言ではない。日本人はおそらくそこに、エロと美とを重ね合わせ、追究してきた。

 

現代の女性たちは随分と性の話題に対してオープンになったが、これが度を超すとどうなるだろう。例えばマスターベーション。「週に○回、こういう感じでこんな妄想をしながらだけどなにか?」と全く恥じらうことなく堂々と答える女性を真っ向から受け入れられる男性がいるだろうか? もしも私が男だったら、面白い人だなとは思えど、恋愛対象にするにはなかなかに勇気がいる。なぜか。「だって秘すれば花の伝統で育った僕らですもの。急に伝統を覆すなんてそんなぁ……」というものだ。数百年の伝統は重い。

 

男と女は身体の構造からして違うのだから、完全にわかり合えることなどないと思っている。わかり合えないから確かめることが必要なのであり、わかり合えないからこそ、思いやりを与え合う価値がある。例えば上記のようなことを聞かれたとして。女性たちも世阿弥の教えを思い出し曖昧に微笑むくらいの芸を隠し持ち、いくばくかでも夢と妄想を男性に与えてもよいのではないかと思う。そして殿方にはぜひ、彼女や妻がこっそりとirohaを持っているのを見つけた場合、それごと受け入れるくらいの歩み寄りをしていただけると、きっと2人の世界は、伝統を踏まえながらも新しい時代へ突入できるのではないか、と思うのです。

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