痩せないとかわいくない、は違う。リアルサイズモデル™・mikaの「許す心」
ここ数年続いている「ボディポジティブ」ムーブメント。「自分たちのありのままの姿を受け入れよう」という力強いメッセージで世界中の人から賛同を集めています。一方で、スリム=美しいという価値観も未だ根強く、それに縛られ、自らを愛することができない人も多くいます。本当の自分のカラダを受け入れ、前を向くために必要なこととは、一体何なのでしょうか。
今回ご登場いただくmikaさんは、「PEACH JOHN(ピーチ・ジョン)」をはじめ、さまざまな媒体でリアルサイズモデル™として活躍しています。「自分のカラダに自信が持てない」「太っている / 痩せすぎているから露出したくない」と悩みを抱える方に向けて、個人のSNSでボディポジティブを発信し、たくさんの女性を勇気づけてきました。「世間がつくった美の価値観の檻に閉じ込められていないか、まずは自分に問いかけて」と語るmikaさんの体験談をとおして、自分のカラダを愛するためのヒントを探ります。
mika kitahara
リアルサイズモデル™。1999年長野県生まれ。自身の体験をもとに、SNSでボディポジティブのメッセージを発信する。2019年には、「ピーチ・ジョン」のオーディションで応募者600名以上のなかから選ばれ、ブランド公式のリアルサイズモデル™としてモデルデビュー。以降、さまざまなブランドでモデルとして活躍している。
twitter:@ ___mikaaa___ Instagram:@mika_kitahara
Index
テレビ出演を通じて感じた、カラダに対する世間の意識
――mikaさんは、2019年10月からリアルサイズモデル™・プラスサイズモデルとして活躍されています。今年7月には『ザ!世界仰天ニュース』(日本テレビ)にも出演され、SNSなどで話題になっていましたが、反響はいかがでしたか?
mika:ポジティブな声をたくさんいただきましたね。この番組は、「仰天チェンジ!」というコーナーが有名ですが、以前は太っていることで周囲の人から悪口を言われていたけれど、ダイエットして人生が変わったというようなストーリーが数多く紹介されていました。私自身、子どもの頃からふくよかだったため、それを見て「太っていたらこんなにひどい扱いを受けるんだ」と思ったのを覚えています。
mikaさん
mika:そんな番組が、リアルサイズモデル™としての自分の活動を肯定的に紹介してくれた。一昔前だったら、馬鹿にされていたかもしれませんが、放送後は、「自分を好きになってみようと思えた」と、さまざまな方からコメントをいただきました。メディアも変化しつつあり、ボディポジティブに対する世の中の理解が深まってきていることを、肌で感じています。
実際、ファッション業界の潮流も少しずつですが変わってきていて。例えば、いままで痩せたモデルしか起用していなかったブランドが、私を起用してくれるようになりました。
😊☺️ pic.twitter.com/vXmgxSZdEz
— mika🏔 (@___mikaaa___) July 11, 2021
『ザ!世界仰天ニュース』出演時の様子
――mikaさんはモデルの活動をはじめて2年ほどだそうですね。ご自身の心境にも変化はありましたか?
mika:そうですね。私自身、最初は心ない言葉をかけてきた人を見返すためにモデルの世界に飛び込んだ部分もありました。でも、「こういうモデルさんを待っていた」「体型が自分に近いから、服のイメージがしやすくて買ってみようと思えた」など、共感し受け入れてくださる方の声が増えるにつれ、活動の動機も変わってきました。いまは、同じ悩みを抱えている人たちに安心感を持っておしゃれを楽しんでもらいたいと思い、活動しています。
――日本のルッキズムは根深く、「モデルは痩せているべき」という風潮も未だ強いと思いますが、実際に活動されているなかで感じたことはありますか?
mika:「痩せないともったいないよ」と美しさを押しつけるような言葉を投げかけられたこともあります。でも私は、ありのままの自分を大切にしたことで、モデルとしてここまでやってこれた。いただいた言葉はひとつのアドバイスとして謙虚に受け止めつつ、「あなたの尺度で私の美しさをジャッジする権利はない。私はいまの私の姿でいたい」と毅然とした態度が取れるようになりました。
友人の言葉で「特別太っているわけでも、醜いわけでもない」と気づけた
――現在は自信を持って活動されているとのことですが、もともとは自分のカラダにコンプレックスがあったとうかがいました。
mika:先ほどもお話したように、私は小さい頃から身長含めカラダが大きかったんです。日常生活でも、家族や同級生からカラダのサイズについて遠回しな指摘があり、「私は人とは違うのかな?」とコンプレックスを感じていました。その後、高校を卒業し、地元の長野から東京にある音楽系の専門学校へ進学したのですが、同級生には美意識の高い人が多く、そこでも自分と人とを比べてしまってなかなか自信が持てずにいました。
――自信を持てるようになったきっかけは何でしたか?
mika:専門学校で出会った友人たちが、私の視野を大きく広げてくれたんです。その友人たちはモンゴル、イタリア、台湾など、さまざまな国のルーツを持ち、価値観もじつに多様でした。ほかの同級生からは、「ダイエット中なのに、なぜそんなに食べているの?」と言われたり、とある音楽のオーディションで「その身長だったらもっと痩せたほうが良いよ」と言われたりして。「このままじゃダメなんだ、ダイエットをしなきゃ」と自信を失っていたときも、その友人たちは「ありのままのmikaで良いんだよ!」と心から励ましてくれました。彼らがいたから、外に目を向けられたし、私は特別太っているわけでも、醜いわけでもないんだと気づけたんです。
――SNSでの発信や「ピーチ・ジョン」のモデルを始めたのもその頃ですか?
mika:はい。まわりの友人にも恵まれ、自分に自信がつき始め、ボディポジティブという概念も知った頃。日本やアジア圏の人には「痩せている=美しい」という価値観がかなり強くあり、自分や他人の体型に厳しいからこそ、その美の尺度から外れている人を非難してしまうのだと理解できるようになりました。
その仕組みが理解できてきた結果、少しずつ自分のカラダへの見方も変化してきて、私と同じ悩みを抱えている方にボディポジティブを伝えたいと思い立ち、SNSでの発信をはじめました。しばらくして、私の活動を応援してくれていた地元の友達が、「ピーチ・ジョンでモデルのオーディションがあるよ」と教えてくれたんです。その頃には、海外で活躍するプラスサイズモデルの存在も知っていて、興味を持っていたため、迷わず参加を決意し、最終的に合格することができました。
私が私であれば
どんな姿形であろうと楽しい家宝にしたいくらいいい写真@peach_john #脱いでみた pic.twitter.com/sIImoVQxcK
— mika🏔 (@___mikaaa___) October 8, 2020
mikaさんのツイートより
ダイエットが続かないのは「このままの自分でいたいから」だった
――長年あったコンプレックスをポジティブに受け止められるようになったのですね。
mika:はい。以前は、「このままじゃダメなんだ」と思うたびダイエットをし、途中で挫折するというのを繰り返していました。あるとき、「なぜ続かないのか」を考えて紙に書き出し、自問自答してみたんです。そこで気づいたことは、「自分は、いまのままでいたいんだ」ということでした。
――世間の多くがイメージしている「理想の体型」は、mikaさんが心からなりたいスタイルではなかった。
mika:そのとおりです。大切なのは、まず自分を知ること。煽ってくるような情報には触れないことが大切で、受け取り方が変わると世界の見え方もガラリと変わるのだといまは考えています。
――ご自身のカラダに心から自信が持てるようになった印象深い経験はありますか?
mika:モデルデビューが決まり、撮影された自分の姿をモニターで見たときですね。自分の姿がとてもかわいくて、素敵だと感じられたんです。「痩せないとかわいくない」なんてことは全然なかったし、型にはまっていなくても美しさは表現できるのだと思えました。私なら、世の中の風潮を変えていける。そう確信しました。
――自分のカラダを愛し、自信を持ちたいけれど、世の中の狭い美の基準に振り回されている人も多いと思います。どうすれば自身のマインドを変えていけるのでしょうか?
mika:そういう方は、自分のなかに高すぎる「美の理想」があり、そうなれない自分を受け入れられず、自己嫌悪に陥って負のループに陥っていると思うんです。「自分を受け入れる」ということはとても難しいことなので、まずは「自分を許せない自分を許す」ことからはじめてみてはいかがでしょうか。
ストイックになりすぎずに、自分を愛して、ときには甘やかしたり、逃げたりしても大丈夫。無理にダイエットをしても、「もっと痩せなよ」と外から言ってくる人は責任を取ってくれませんから。健康に支障が出ないように気をつけつつも、自分にとって心地の良い体型で自分の好きなことをしていけば良い。
――「ありのまま」でいるということでしょうか。
mika:うーん……。私自身、最近「ありのまま」という言葉に縛られていた時期があって。「ありのまま」の自分であるために、太ったり痩せたりという変化をしてはいけないと、自分の考えを固定し、成長できずにいました。「ありのままで良い」という流れになってきたからこそ、「ありのまま」であることに縛られすぎないでほしい。それは本当に自分にとって居心地が良い姿なのか、それとも世間がイメージしている「ありのまま」の姿なのか、自分の心に問いかけて、とことん考える。そうしてやっと見えてきた「本来の自分」が大事だし、本当に自分を愛することにつながるのではないかと思います。
約1ヶ月ぶりの投稿です。
肉割れと共に😊
ここ数ヶ月で7キロ痩せました。
昔の私だったら喜んでいたに違いない。だけど嬉しくなく、むしろ悲しんでいる気持ちにびっくり。私は肉付きのいい身体が好きなんだと改めて気付きました
世間からの評価ではなく自分の居心地の良い姿でいる事って大切だ☺️ pic.twitter.com/1u9dPKt13i— mika🏔 (@___mikaaa___) March 8, 2021
mikaさんのTwitterより
「体型だけで自分の価値は決まらない」モデルとして届けたいメッセージ
――今後、モデルとしてどのようなことを成し遂げたいと思っていますか?
mika:私は以前から、アメリカのスーパーモデルであるアシュリー・グラハムさんに憧れていて。カーヴィな体型を肯定的に捉え、メディアが視聴者に偏った美意識を植えつけているとはっきり主張し、「私たちはそういう情報に惑わされず、自分の好きなものを選んでいく」と発信している彼女の姿に、いつも勇気をもらいます。
最近は日本でも、知名度のある女性のお笑い芸人さんがプラスサイズモデルとして活躍して話題になることも多いですが、私は専業モデルとしてトップに立ち、リアルサイズモデル™・プラスサイズモデルの地位を高めていきたい。そのために、今後はもっと自分に向き合いながら、ファッションウィークにも挑戦していき、美の枠から外れてきた人に寄り添えるモデル活動を続けたいです。
――mikaさんの活動によって救われる人が多くいると思います。
mika:Instagramに相談のDMが来ることがあるのですが、周囲からきれいだと言われるような人も「自分が太っているように感じて、自信が持てない」という悩みを抱えているんです。そういったメッセージを見るたび、日本の体型に対する価値観の根強さを感じますし、「細い=美しい」という考え方をあらためないと大変な思いをする人が今後も増えていくのではないかと、危機感を覚えます。
だからこそ私は、「そのコンプレックスがどこからきているものなの?」と問いかけ、お互いにそう感じる原因を考えていきたいし、「あなたには素敵なところがたくさんあるんだよ」と、つねに伝えていきたいです。
――この記事はちょうど夏真っ盛りの時期に公開されます。肌を露出する機会が増える頃ですが、自分の体型にイマイチ自身が持てないという方へメッセージをいただけますか?
mika:まず、ボディポジティブの考え方を知り、「体型だけで自分の価値が決まるわけではない」と自身の心に呼びかけてみると良いと思います。そして、自分が安心する環境をつくり、そこに身を置くこと。他人の粗探しをするような人たちが集まる環境では、萎縮してしまいます。
自分を受け入れてくれる人たちと過ごすことで、他人の目を気にする必要もなくなるはずです。服を選ぶときも流行や体型などは気にせず、自分が本当に着たい一着を選んで堂々としてみて。「まわりに流されず好きなもの着ていること」が自分に自信を与えてくれますし、心も解放されると思いますよ。