ロリータのカリスマ・青木美沙子が貫く、人の意見より「自分の心」に従う生き方
SNSが普及し、不特定多数と意見を交わすことが日常になりました。何が正しくて、何が正しくないのか。「正解 / 不正解」という指標で判断されることも少なくない世の中で、まわりの目を気にせず、心のままに自分の好きなことに没頭することは想像以上に難しくあります。
今回登場いただく青木美沙子さんは、ロリータファッションのカリスマ的存在。看護師として働きながら、365日ロリータファッションを纏います。雑誌『KERA』(ジェイ・インターナショナル)でモデルデビューして以降、メディアや外務省の「カワイイ大使」などを通じて、国内外にロリータファッションの魅力を伝えてきました。
リボンやレースで着飾るデコラティブな格好は、目立ちやすいもの。しかし、青木さんにとってロリータファッションは戦闘服であり、自分に自信を持つためのアイデンティティーのひとつだと話します。「私の人生は私が決める。人は人、自分は自分です」――そう力強く語る青木美沙子さんに、自分の心にまっすぐ従う生き方のヒントを教えてもらいました。
青木美沙子
ロリータモデル、看護師。ロリータファッションの第一人者として活動。外務省より「カワイイ大使」に任命され、文化外交にて25か国45都市を歴訪した。 2013年2月に日本ロリータ協会を設立し、初代日本ロリータ協会会長を務める。
twitter:@aokimisako Instagram:@misakoaoki
「リボン1個でかわいくなれる」。ロリータファッションが自信をくれた
──青木さんがロリータファッションに出会われたのは、高校生の頃だったとうかがいました。数多ファッションがあるなかで、「ロリータ」に心惹かれた理由を教えていただけますか。
青木:私がモデルを始めたのは、1990年代。SNSがなかったので、多くの人が主に雑誌を参考にオシャレを楽しんでいた時代でした。私は『KERA』というパンクやロリータといった個性的なファッションを紹介している雑誌で読者モデルを始めて、撮影でロリータファッションを着させてもらったんです。「大人になっても、お姫さまみたいな格好をしていいんだ!」と嬉しくなって、そこから虜になりました。
あとは、ロリータって露出が少ないので、カラダのコンプレックスを隠せるんです。ブラウスを着て、ジャンバースカートを着れば肌の露出やカラダのラインがほぼ出ません。痩せる努力をすればいい、という考えもあるかもしれないけれど、コンプレックスをすべて包み込んでくれるやさしさがあると私は感じました。
青木美沙子さん
──もともと、コンプレックスが多いタイプだったんですか?
青木:読者モデルになって現場に行ったとき、まわりのモデルさんが雑誌で見るよりもはるかに痩せていて、かわいかったんですよね。そこで、自分なんて全然かわいくないと落ち込んでしまって。でも、ロリータファッションを着ればいろんな部分が隠れて、自信が持てるようになった。さらに、レースやリボンを纏うことで生まれるかわいさが、私の武器になるような感覚がありました。「リボン1個で10倍かわいくなれる」みたいな。ロリータファッションは、私にとっての戦闘服です。
──ロリータファッションと通常服を比べると、心持ちに変化があるということでしょうか。
青木:普段は看護師としても働いているので、仕事中はナース服を着ていますが、それ以外は365日ロリータファッションで過ごしています。ナース服を着ると仕事モードになり、ロリータを着ると「かわいいぞ!」と自信が湧いて、モデルとして表に出るモードになれる。なので、冠婚葬祭など年に数回ある、普段は着ない服を着る日はソワソワしますね。心なしか、自信がなくなってしまいます。
──すごく目立つ格好なので、街中で人に見られたりするほうが緊張しそうに思っていました。
青木:もう慣れてしまった部分もありますけど、私は人に見せたくて着ているわけではないので。誰にどう思われようと、自分が満足していればいいじゃんと思うので、着ているほうが緊張しません。
──特定の年齢を区切りに、ロリータファッションをやめる人もいると聞きました。青木さんも、やめどきを考えることはありますか?
青木:まったくないですね。今年38歳になるのですが、SNSなどで「そろそろやめたら」と言われることはありますが、他人の意見は聞き流しています。「カワイイ大使」などで海外に行くことも多いのですが、海外だとほとんど年齢を聞かれません。でも、日本だと必ず聞かれる。年齢で人を判断することが多い国だと感じますね。
最近だと「ツインテールは何歳まで許されるのか」という議論が話題になっていましたけれど、年齢を基準に正解を決める必要はないのかなと。恐らく、長らく雑誌を読んできた世代は「●●歳までのモテファッション」のように、年齢で区分して思考するクセがついてしまっているのかなと思います。
──TPOという考えが好まれてきたように、相手や社会全般に合わせることを無意識に教え込まれてきたのかもしれませんね。
青木:もちろん、年齢に応じて変化することは悪いことではありません。私も、年齢を重ねたことで、若い頃に好んで着ていたパステルピンクやマカロンカラーよりも、くすみピンクのような大人っぽい色合いのほうが似合ってきました。だから、クラシカルロリータという大人っぽいジャンルのものを好んで着ています。
──やめるのではなく、変化する自分に合わせてテイストを変えていく。
青木:はい。ロリータファッションが好きだから、そのなかから自分に似合う装いを選んでいるだけ。女性は妊娠・出産など生活スタイルが変容するので、たとえば子育て中はやめるけれども子どもが成長したらまたロリータを着るようになった、という話も聞きます。じつは、男性でもロリータファッションを着ている人もいらっしゃるくらい。自分にとって心地よくて、似合うと思うものを着ることが大事だと思います。
最近は「宅ロリ」といって、在宅でロリータファッションを楽しむ人も増えているそう。「外に出るのは躊躇してしまう方は、お家のなかで着て写真を撮って楽しむのもオススメです!」と青木さん
「普通」の押しつけはナンセンス。SNS批判への向き合い方とは?
──青木さんのTwitterを拝見していると、批判的な意見に対してご自身の考えを述べられている場面をときどき目にします。批判的な意見に対してどのように向き合われていらっしゃいますか?
青木:テレビ番組の『ノブナカなんなん?』(テレビ朝日)で、婚活していることを話したあとに、Twitterで私のことを「37のババアの残飯」と書いた人がいたんです。私は、自分の好きなように生きているし、それで満足している。馬鹿にされたことに腹が立って「私の人生は私が決める」と反論しました。「これが普通」という認識は人それぞれあると思いますが、その呪縛を相手に押しつけ、さらには見下すなんて、酷いこと。
SNSが発達したことで、必要以上に干渉してくる人が増えましたよね。特に、私は目立つファッションをしてメディアに出ているので、ライフスタイルやファッションに口出しされることが多いんです。私は最後に自分が納得した人生を歩めていることが大事だと思っていますが、そう思えない人もいますよね。他人の意見に左右されやすい人が増えていることも心配です。
──特に若い世代だと、友だちづき合いが限られていたり環境によったりするので、SNSの意見に翻弄されてしまうことは多いと思います。自分の意思を貫くために、青木さんが心がけていらっしゃることを教えてもらえますか。
青木:先ほどもお話しましたが、私のスローガンは「私の人生は私が決める」。「自分なんて」と卑下してしまう人って多いと思うのですが、もっと自分を大事にしてほしいし意見を貫いてほしいです。私自身は、迷ったときや他人に意見されたときは、「自分はどう思うのか」自分自身に問い、考えを整理しています。
自分のなかで抱えきれなくなったときは、Twitterに吐き出すこともあります。精神衛生的にもSNSからはなるべく距離をとっているので、半年に一回くらいですが。
──他人に相談することはありますか?
青木:あります。だけど、人のせいにしてしまうことは良くないので、最終的には自分で決めます。自分の人生の責任は自分でとるべきだと思っているので。
という私も昔は、まわりからの意見もあって、モデルは若いうちしかできないという先入観がずっとありました。でも、25歳を過ぎたあたりからモデルの仕事が増えて、看護師よりもモデル仕事に時間を割くようになったらもっと増えた。若い頃は、この年齢になっても仕事をしているとは想像もしていませんでした。年齢関係なく何歳になってもチャンスはあるし、そのチャンスをどうするかは自分自身が決めることなんですよね。
悩んだ末の年齢公開。きっかけは『セブンルール』だった
──「人は人、自分は自分」という価値観はいつ頃から形成されたのでしょうか。昔から、そのような考えをお持ちでしたか?
青木:いえ、じつはつい最近のことです。4年ほど前までは意志が揺らいでばかりだったので、年齢もパーソナルなこともまったく発信していませんでした。こうして、自分の意見を伝える機会もありませんでしたね。
でも、2017年に『セブンルール』(フジテレビ)という密着番組に出させていただいたときに、年齢公表がマストだったんです。ほかのお仕事もありますし、アンチに叩かれることが容易に想像できたのでそれまで年齢を公にしていなくて。すごく悩んだのですが、年齢を公表したんですよね。そうしたら、否定的な意見よりも「(年齢を重ねてもロリータファッションを着ていいのだと)勇気をもらえた!」という声が多くて。そこで、世間一般の考えよりも自分の考えを貫いていいんだ、と自信がつきました。
──先ほど、青木さんが「普通の呪縛」とおっしゃっていましたが、無意識のうちにそうした呪縛が自分たちを縛っているのかもしれないと思いました。何かきっかけがあることで、まったく違う見方を知ることができたりするのですね。
青木:そうですね。結婚だって、それがゴールではないと思うんです。私も結婚への憧れがあったから婚活していましたけど、いまは「自分を楽しみたい」という気持ちが強くなってきたので(婚活は)やめました。常識に縛られることなく視野を広げて、「自分のやりたいこと」を軸に考えると自ずと呪縛がほどけていくのではないかと。物事を完璧にやりたがる女性は少なからずいて、思い悩むことも多いと思うのですが、まずは自分を大切にしてほしいです。
「コロナ前は、ロリータファッションを着てお茶会に参加していました。苺の季節のアフタヌーンティーならイチゴや赤い服を着たり、ハロウィンの季節ならちょっと変装をしたり。ロリータファッション+αの行事は楽しいですよ!」と青木さん